★★今場所の見どころ★★


夏場所の最大の焦点は栃ノ心の大関昇進がなるかどうかだ。初場所は14勝1敗で初優勝を飾り、春場所では優勝した横綱鶴竜を破って2ケタ勝利。

成績だけでなく相撲内容にも格段の進歩が見られる。以前は右四つという型にこだわり過ぎるあまり攻めが遅かったが、今年に入ってから形よりも攻めることに重点を置くようになった。左四つであろうと、組ませてもらえなかろうと攻めるという意識が白星に結び付いている。この2場所で一気に大関候補の筆頭に躍り出た感がある。

大関昇進への鍵は上位戦でどれだけ星を稼げるかだろう。もともと形を作ってから攻めたいタイプなので取り零しは少なかったが、逆に横綱・大関相手には形を作る前に攻められてしまいなかなか勝たせてもらえなかった。だが、この2場所のように攻めに積極性が増してくれば、自ずから結果も変わってくるのではないか?

特に先場所鶴竜を破った相撲は成長を感じさせた一番だった。先に横綱に右前廻しを許したが、左の上手を引くという狙いを一点に絞り、しかも浅い良い位置を引いたことで胸を合わせる絶好の体勢に持ち込み、鶴竜に抵抗を許さなかった。

あの相撲を観ると過去25戦全敗の白鵬戦の期待も高まってくる。大関昇進へは乗り越えなくてはならない最大の壁だが、これまで完敗ばかりを繰り返してきたわけではない。新関脇の場所で一瞬横綱を吊りかけたり、直近の対戦では白鵬より先に廻しを引いて攻めたものの横綱の対応力に屈した。大関取りの成否と共にどこまで栃ノ心が成長したのかを見極める一番になるかも知れない。

優勝争いはやはり白鵬が頭一つ抜けているように思う。自身初めて2場所連続の休場を経験したが、この横綱はなるべく万全な状態で出場することに重きを置いているので、さほど心配はないのではないか? 春巡業中に実父が亡くなり、発熱で体調を崩すなど心労が祟ったこともあったが、気持ちの切り替えもできているだろう。優勝の仕方を一番よくわかっている横綱が幕内1000勝という金字塔へ向けて前進してくれるに違いない。

対照的に心配なのがもう一人の横綱稀勢の里だ。春巡業には中盤から合流して精力的に稽古を重ねているかと思われたが、場所が迫って稽古が本格化するにつれてペースダウンするということがこの数場所繰り返されている。本場所の土俵から遠ざかるほど相撲勘が鈍るのを恐れているので、出場への可能性を模索せずにはいられないのだろうが、これまでの前例を鑑みても焦れて出場に踏み切っても良いことはないだろう。

ここまで来たら1場所休場が増えたところで変わらないというくらいの開き直りが必要かも知れない。低迷の原因が明確である以上、少なくとも本場所で15日間全うできるくらいには回復させてから出場するのが力士としての礼儀だろう。次の出場で進退を懸けることを明言しているのであればなおさらだ。最終的には横綱自身が判断するだろうが、今は稀勢の里の”英断”を待つしかない。

先場所を制した横綱鶴竜は痛めていた右手こそ全快ではないようだが、稽古自体は順調に重ねている様子。今年土俵に復帰してきてからは2場所連続で初日から10連勝以上しており、横綱自身が語っていたように「自分はまだ強くなれる」を土俵上で体現している。

ただ、これまで優勝した翌場所はいずれも白星が2ケタにも届いていない。体調万全でなくとも相撲の組み立てで先場所はどうにか乗り切ったが、ケガの不安があることは対戦相手にもわかっており、そこが素直に優勝争いの本命に押しにくい要因でもある。再度賜杯を抱いてそういった”雑音”を払拭してもらいたい。

本来なら優勝候補として名前を挙げたいだが、今場所に関しては出場さえ危ぶまれている。春巡業終盤で腰を痛め、場所前の稽古では右肩、左腕と立て続けに負傷した。ここ2場所12勝で準優勝しており、全勝優勝なら横綱昇進もという期待も一部にはあるが、将来ある身だからこそ無理はしないで頂きたい。

遠藤が待望の新三役に昇進した。ケガが完全に良くなったわけではないが、ケガとの付き合い方を覚えたという内容の話を遠藤自身はしているようだ。他の力士と比べて体格が大きいわけでもなく、馬力があるわけでもないが、巧さに関しては幕内の中でもトップクラスだ。勝敗より内容にこだわりを持って、初めての三役を務めてもらいたい。

その他、横綱・大関初挑戦となる阿炎豊山の土俵にも注目が集まりそうな夏場所。果たしてどんな戦いが繰り広げられるのか今から興味津々である。


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